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第9回ものづくりワールド名古屋

 

トライボコーティング技術研究会など、第10回岩木賞贈呈式、第20回シンポジウムを開催

 トライボコーティング技術研究会( https://www.sites.google.com/site/tribocoating/ )と理化学研究所は2月23日、東京都板橋区の板橋区立文化会館で、「岩木トライボコーティングネットワークアワード(岩木賞)第10回贈呈式」および「第20回『トライボコーティングの現状と将来』シンポジウム―紫色発光半導体技術、コーティング膜の測定評価技術、産学連携による新技術―」を開催した。今回のシンポジウムは、「第2回いたばしベンチャーフォーラム」(主催:板橋区)、「第36回テクニスト研究会」との合同開催となった。
第10岩木賞受賞者と関係者第10岩木賞受賞者と関係者

 岩木賞は、同研究会と未来生産システム学協会(NPS)などからなる岩木賞審査委員会が表面改質、トライボコーティング分野で著しい業績を上げた個人、法人、団体を顕彰するもので、当該分野で多くの功績を残した故岩木正哉博士(理化学研究所 元主任研究員、トライボコーティング技術研究会 前会長)の偉業をたたえ、2008年度より創設された。今回は大塚電子が、業績名「反射分光干渉法を用いた三次元形状体へのコーティング厚みの非破壊測定」で優秀賞を受賞した。また、グウェン ボロレ氏(アントンパール・ジャパン)とオーストリアのAnton Paar社が、業績名「PVDコーティング膜の品質管理法の確立と普及」によって、岩木賞初となる法人・個人同時受賞での事業賞に輝いた。さらに、中村修二氏(カリフォルニア大学サンタバーバラ校 教授)と米国Soraa社が共同で、業績名「人体に優しい、紫色LEDを使った、太陽光に近い白色LEDの開発と実用化」により、こちらも岩木賞初となる国際賞・事業賞の同時受賞に輝いた。

 冒頭、挨拶に立った坂本 健・板橋区長は「この度の第10回岩木賞贈呈式、第20回トライボコーティングシンポジウムの開催をお祝い申し上げる。トライボコーティング技術研究会は歴史が長く、トライボロジーの技術とコーティングの技術に加えて、ファブリケーションという技術が融合した、新しい表面を創出するための技術として脚光を浴びている。多くの研究者が集まり情報の交換や収集、さらに研究者の養成という大変価値のある取組みをしている。研究会の皆様には研鑽を続けられ日本の、世界の技術の発展、産業の発展に貢献するような、研究のさらなる発展を期待したい。また光学機器、精密加工技術において板橋区の得意とする光学分野で培ってきた精密機械工学はトライボコーティング技術とは非常に親和性が高い。ともに意思疎通を図り情報交換を図って、さらなる発展につなげていきたい」と述べた。
挨拶を述べる坂本氏挨拶を述べる坂本氏

 また、大森 整会長(トライボコーティング技術研究会 会長、理化学研究所 主任研究員)は、「今回は、当会のシンポジウムと、板橋ベンチャーフォーラム、テクニスト研究会の三つの団体での合同開催となる。当会は表面改質、ファブリケーション、トライボロジーをテーマに、いわゆる表面加工全般を取り上げ、扱うテーマは年々広がっている。一方テクニスト研究会(テクニシャンとサイエンティストを組み合わせた造語)は技術・技能に基づく科学技術、特に技能継承を取り扱っている。トライボコーティングに関しても技能職が強い面もあるため、今回三つの研究会を合体させての開催を企画してきた。さらには、今回で第10回となる岩木賞贈賞式も開催されるなど、いろいろな方が参加するため、ぜひ情報交換を活発にしていただき、いろいろな分野間の連携を深めて、新しい知恵を生み出していければ、今回の企画は成功したも同然と考えている」と述べた後、岩木賞各賞の審査経過説明を行い贈呈式に移行した。
挨拶を述べる大森氏挨拶を述べる大森氏

 優秀賞「反射分光干渉法を用いた三次元形状体へのコーティング厚みの非破壊測定」の業績は、独自の「顕微反射分光方式」によって、形状のある実サンプルに被覆されたDLCなどコーティング膜の厚みの、非破壊・非接触、高精度・高速での測定を実現した技術が認められた。実際のコーティング対象となる材料は三次元形状を持っており、平板のモニター・サンプルを用意してのボールによる研磨式試験法やSEMといった破壊検査手法では対応できなかったが、本業績では、独自の顕微反射分光方式を用い、かつ最小3μmの測定径で、三次元形状を持つ材料であってもオートフォーカス機能によるスキャニングで非破壊・非接触での各箇所の膜厚測定を実現した。膜厚だけでなく光学定数(屈折率、消衰係数)といった膜由来の構造解析も可能で、機能性フィルム、プラスチック、半導体、電池材料、光学材料、自動車部品、ディスプレイ用部材、医用部材など、幅広い応用が可能なことが評価されたもの。受賞の挨拶に立った同社の岡本宗大氏は「大塚電子は創業以来、皆様の暮らしや健康の力になりたいという思いで活動してきたが、今回の受賞はその一端が認められ非常に嬉しく思っている。今回受賞した内容としては、トライボコーティング技術などによって形あるものの表面に成膜したコーティング膜の膜厚を測定するという技術。様々なコーティングが普及する中で、より高い膜の品質管理がしたいというニーズに応えたいという思いで開発を行った」と述べた。
左から大塚電子の常務執行役員 開発部統括 PM担当 新田哲士氏と材料ユニット ユニット長 東京支店 支店長 色川 健太朗氏、藤井 進氏(NPS表彰顕彰部門長)、大森氏左から大塚電子の常務執行役員 開発部統括 PM担当 新田哲士氏と材料ユニット ユニット長 東京支店 支店長 色川 健太朗氏、藤井 進氏(NPS表彰顕彰部門長)、大森氏
挨拶を述べる岡本氏挨拶を述べる岡本氏

 事業賞を受賞した業績「PVDコーティング膜の品質管理法の確立と普及」は、種々の製品への硬質薄膜の実用化を進めるのに必要となる基礎データを取得するための、Anton Paar社のスクラッチ試験機、膜厚計、ナノインデンテーション試験機、摩擦摩耗試験機などの評価・分析装置(旧CSM Instruments社製品で、Anton Paar社が2013年に買収)を日本に普及させ、日本におけるPVD(物理蒸着)コーティング市場の発展・拡大を被膜の評価・分析面から支えたグウェン ボロレ氏の長年の貢献が認められた。同時にAnton Paar 社の評価・分析装置が、成膜装置メーカーと受託加工業者(ジョブショップ)において硬質薄膜の機能保証に必要な評価試験装置のデファクトスタンダードとしての地位を確立するまでに普及したことが評価されての受賞となった。受賞の挨拶に立ったアントンパール・ジャパンの北原 孝社長は「トライボロジー分野に関しては、2013年11月15日に親会社のAnton PaarとCSM Instrumentsが買収合意に至ったことから弊社もトライボロジー学会に参加させていただいている。今日では、粘弾性測定装置・レオメーターも活用したトライボロジー計測システムを販売させていただいている。また、AFMやX線回析装置、ゼータ電位測定装置など様々な装置を扱わせていただいている。今後も単に装置を販売をするに留まらず、ラボを活用した技術面のサポートも迅速に行っていきたい」と述べた。
左からグウェン氏、北原氏、藤井氏、大森氏左からグウェン氏、北原氏、藤井氏、大森氏
挨拶を述べる北原氏挨拶を述べる北原氏

 国際賞・事業賞同時受賞の業績「人体に優しい、紫色LEDを使った、太陽光に近い白色LED の開発と実用化」は、窒化ガリウム(GaN)を用いたLED(発光ダイオード)の開発において必須となる良質なGaN薄膜を形成するために、ツーフロー有機金属気相成長(MOCVD)法を発案したこと、またp型GaNの生成を、それまで他の研究グループによって見出されていた電子線を用いずに、アニール処理によって実現したことなどが認められた。また、青色LEDでノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏が起業したベンチャー企業Soraa社が事業化に成功した、GaN-On-GaNタイプの紫色LEDは人工光では自然光のスペクトルに最も近いことから「ブルーライト症候群」の抑制につながると言われているほか、美術品、食品、医療用途などにおいて、原色に正確な発色を可能とする照明について、将来的に新たな波及効果が期待されることが大きく評価された。受賞の挨拶に立った中村修二氏は「Soraa社は2008年にアメリカ・カリフォルニア州で創業した。日本ではほとんど知られていないが、青色LEDを使用した白色LEDを夜の照明に使うと眠れなくなるなどの健康障害が起こる。これは外部環境にセンシティブな子供には特に危険だ。Soraa社が販売する紫色LEDを使用した白色LEDは太陽光に近い白色を実現し、青色強度がゼロだ。1カ月ほど前にニューヨークで販売を始めたところ、発売と同時に売り切れた。アメリカでは、青色LEDを夜の照明として使用するリスクの認識が進んでおり、日本でも普及させたいと思っている」と述べた。
左からSoraa社の汲川雅一氏( 日本法人カントリーマネージャー)、中村氏、藤井氏、大森氏左からSoraa社の汲川雅一氏( 日本法人カントリーマネージャー)、中村氏、藤井氏、大森氏
挨拶を述べる中村氏挨拶を述べる中村氏

 贈呈式の後はシンポジウムに移行。岩木賞の記念講演として優秀賞の岡本氏、事業賞のグウェン氏、国際賞・事業賞の中村氏がそれぞれ講演を行った