理化学研究所、「先進ものづくり技術によるアナライザーキーコンポーネント開発基盤の構築状況」シンポジウムを開催

 理化学研究所 大森素形材工学研究室は8月3日、同所 和光研究所で理研シンポジウム:第11回「先進ものづくり技術によるアナライザーキーコンポーネント開発基盤の構築状況」を開催した。
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 スーパーアナライザー(SAP=Super Analyzer Platform)計画は、将来、従来の性能や仕様のアナライザー/計測・分析機器を超えるスーパーアナライザーを構築する心臓部であるキーパーツ、キーモジュール、キーコンポーネント(総称して「クリティカルコンポーネント」)の開発テクノロジーの研究を推進してきている。アナライザーの心臓部をオンデマンドで作り出すプラットフォームを構築することで、我が国の産業と先端科学を支える技術基盤の創出と係る人材の育成を目指す。

 今回は、理化学研究所 主任研究員 大森 整 氏より開会の挨拶・主旨説明がなされた後、最先端の光計測技術とその応用研究ならびにキーコンポーネントを支えるものづくり基盤技術に焦点を当て、我が国の重力波望遠鏡KAGRA、光格子時計、超精密加工と計測に関わる講演が、以下のとおり行われた。

・「先端光技術が拓く重力波天文学」三尾典克氏(東京大学)…天体という巨大な質量の運動の情報が得られる重力の波動現象(重力波)を観測することで、中性子星の内部の現象の解析やブラックホール形成の物理の解明などに寄与できることを説明。米国Advanced Ligo検出器による初の重力波検出など、レーザー干渉型検出器の技術進化について紹介したのち、原子核の1/1000以下の微小変動を検出する我が国KAGRAプロジェクトの概要と干渉計の感度を高めるための要件、重力波検出に必要な要件などについて解説した。KAGRAでは熱揺らぎを抑える目的で低温環境をつくっていることから、光共振器を構成する大型の鏡に低温下で機械特性の悪化する石英ではなくサファイヤ結晶を採用、その研磨やコーティングを海外の企業に委託せざるを得ない現状から、それら技術の国産化を要望した。プロジェクトを成功させ、一刻も早く重力波天文学で世界の仲間入りをしたい、と述べた。
18081402SAP講演する三尾氏

・「光格子時計による超精密計測の実現とその応用」高本将男氏(理化学研究所)…セシウム原子の超微細遷移をもとに1秒を定義する現在の精度に対し、10-18(1秒狂うのに300億年かかる精度)と大幅な高精度化を実現する光格子時計の開発の変遷について紹介。Sr(ストロンチウム)原子集団を二段階でレーザー冷却することで「魔法波長」光格子に閉じ込めるという動作原理を解説したほか、Sr原子光格子時計の開発を進めた結果、18桁精度を達成できたことを述べた。格子時計の今後の展開として、日本中の重力ポテンシャルがマッピングできることで地殻変動などがとらえられる可搬型光格子時計の開発や、光ファイバを用いた光格子時計ネットワークの構築、光周波数コムを用いた異種原子光格子時計の周波数比の測定などを目指すとともに、光格子による高次の光シフトの19桁精度評価の実現という、さらなる高精度化を追求したいとした。
18081403SAP講演する高本氏

・「X 線ミラー加工における超精密研削、CMP 連携の可能性」大森 整氏(理化学研究所)…工作機械・工具の高能率・高精度な運動軌跡を転写できる延性モード加工が行える同氏の開発したELID(電解インプロセスドレッシング)研削法が、脆性材料である光学素子などの加工に最適で、計測用・天文観測用装置部品のミラーなどに適用された多数の事例の一端を紹介。ELIDを搭載したナノ加工機への機上計測ユニットの付加やゆらぎの徹底的な低減などによってピコプレシジョン加工を目指している状況を説明した。小型ポータブルアナライザーの心臓部となる、X線分析に耐える石英製全反射ミラーを、ELID研削とCMP(化学機械研磨)を組み合わせた新加工手法によって、少ないプロセス、短い時間で超高精度に作製する九州大学との連携プログラムを紹介。今後はELIDや弾性放出加工(EEM)研磨、磁気粘性流体(MRF)研磨など幅広い加工手法による表面形状・粗さのブロードバンド制御が重要になると述べた。
18081404SAP講演する大森氏

・「超精密加工における最新のトレンド(加工技術/測定技術/市場ニーズ)」桐野宙治氏(クリスタル光学)…超精密加工こそが日本で行う高付加価値加工で、そこでは先進の加工技術と加工プロセスの開発が重要として、自由曲面ミラーが狭スペースで様々な情報をフロントガラスに表示するヘッドアップディスプレイに貢献していることや、形状転写加工が可能な超精密加工機の最近の技術について説明。近年の話題として、中空間周波数のうねり(MSF)への対策として、イオンビームやレーザーポリッシングなどを用いたドイツでの除去事例などを紹介したほか、表面性状の最新の計測技術について紹介した。また、天文向け超軽量ミラーの開発事例として、アルミ合金に無電解ニッケルリン(NiP)めっきを施した後で仕上げ加工を行う例や、NiPめっきが使えない、ミラーを-200℃以下に冷却する赤外線望遠鏡における直接仕上げミラーでの高精度加工例を紹介した。
18081405SAP講演する桐野氏